大動脈弁狭窄症なら宇都宮記念病院

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大動脈弁狭窄症

心臓の弁がうまく開かないことで、心臓から全身に十分な血液が送り出せない病気に大動脈弁狭窄症があります。初期段階では自覚症状はありませんが、進行すると、息切れや胸の痛み、心不全などを引き起こし、突然死のリスクもあるため早期発見・早期治療が必要です。

大動脈弁狭窄症

本記事では、大動脈弁狭窄症とはどのような病気か、症状や原因、検査方法、治療法などを心臓の仕組みと併せて解説します。この記事を参考に、気になる症状があれば循環器科を受診しましょう。

大動脈弁狭窄症とは? 

大動脈弁狭窄症とは、心臓と大動脈を仕切っている大動脈弁の動きが悪くなることで、血液を全身に送り出しにくくなっている状態です。全身に血液がうまく流れないことで心臓の負担が大きくなり、心臓の機能が低下していきます。

大動脈弁狭窄症は、軽度の場合であれば長期にわたって無症状の場合も多くあります。しかし心臓の負担が大きくなり病状が進行すると、意識を失う、胸の痛み、呼吸困難などの症状が起こります。

軽度の場合は、内服薬で全身状態を管理しながら経過観察を行いますが、薬で弁の状態を改善はできません。そのため、根本的な解決のためには「弁置換術」と呼ばれる手術や「TAVI」と呼ばれるカテーテル治療を行います。現在では、外科治療の術式も選択肢が増えており、病態に合わせて負担の少ない方法を選択できるようになってきました。

心臓の構造と弁の働き

心臓は私たちの体で特に重要な役割を担っている臓器です。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしており、1分間に60~100回もの規則的な拍動を繰り返しています。1日にすると、約10万回以上休むことなく拍動を繰り返しているのです。このように心臓は一生働き続け規則的に収縮することで、全身に必要な酸素と栄養素を届ける役目を担っています。

心臓の大きさは200~300gで、4つの部屋と4本の大きな血管で構成されています。4つの部屋はそれぞれ、右上が右心房、右下が右心室、左上が左心房、左下が左心室と呼ばれ、それぞれの部屋には全身または肺へと続く血管がつながっています。

この心臓の4つの部屋を仕切っているのが「弁」と呼ばれる構造です。弁は、血液の流れを一方向に維持して逆流を防ぐ役割があります。右心房と右心室の間には「三尖弁」、右心室の出口には「肺動脈弁」、左心房と左心室の間には「僧帽弁」、左心室の出口には「大動脈弁」があり、それぞれの部屋の内圧や駆出量を維持しています。

このように、私たちの心臓は4つの部屋と4つの弁を持ち、全身や肺に血液を送ったり、取り込んだりしたりして生命活動を維持しているのです。

大動脈弁狭窄症の症状

大動脈弁狭窄症は、軽度の場合ではほとんど症状が現れません。大動脈弁狭窄症になると、左室から大動脈に血液が流れにくくなるため、左室に大きな負荷がかかります。すると、左室の心筋が分厚くなり心肥大を引き起こしますが、一方で心臓はポンプ機能を維持しようと働くため、初期の段階では目立った症状は現れません。

徐々に進行する病気であるため、長期間無症状のまま過ごしており、別の病気の検査や心雑音で大動脈弁狭窄症を指摘される場合がほとんどです。後発年齢は50~60歳代の中高年になってからで、その頃になると狭心痛や失神、左心不全などの症状が現れます。

ここでは、大動脈弁狭窄症でよくみられる狭心痛や失神、左心不全の症状についてそれぞれ解説します。

狭心痛

大動脈弁狭窄症でよくみられる症状の一つが狭心痛です。狭心痛は、締め付けられるような胸の痛みや絞扼感、圧迫感が特徴で、大動脈弁の狭窄により心筋への十分な血流量が確保できなくなります。

左心室が肥大化すると、心臓はさらに力強く拍動するために今まで以上に血液と酸素を届けなくてはいけません。しかし、大動脈弁が狭くなることで、全身の血流が低下しているため冠動脈の血流量も低下します。冠動脈は心筋に栄養を送る血管であるため、酸素の供給が間に合わなくなり、狭心症の症状である狭心痛が起こるのです。

失神

大動脈弁狭窄症が進行すると、左心肥大が進行してポンプ機能が徐々に低下します。すると、心臓から全身に送り出される血流量は減るため、運動時に失神してしまうことがあります。

多くの場合、階段や坂道の上り下り、重たい荷物を持ったときなどの体を動かしたときに起こります。これは、運動により手や足などの末梢血管が拡張したために、脳の血流も低下して起こります。

安静にしているときに失神する場合は、一過性の心室細動や心房細動、房室ブロックなどの不整脈が原因です。これらは命に関わることもあるため、頻繁に起こる場合には、ペースメーカーを使用する場合があります。

左心不全

大動脈弁狭窄症の進行により起こる症状には左心不全による呼吸困難もあります。心不全とは、心臓のポンプ機能が低下している状態です。大動脈弁狭窄症の場合の心不全の原因は左心肥大です。左心不全とは、主に左心室と左心房の原因でポンプ機能が低下している状態です。

左心不全を起こすと、血液が左心室や左心房に滞留します。すると、左心房とつながっている肺にも影響が現れます。肺に血が溜まる「肺うっ血」や水が溜まる「肺水腫」になると、肺での酸素交換がスムーズに行われなくなり、呼吸困難が生じてしまうのです。

大動脈弁狭窄症の原因

大動脈弁狭窄症の原因はいくつかありますが、大きく先天性と後天性に分けられます。それぞれを解説します。

先天性の原因

先天性の原因は大動脈弁の形の異常によるものです。通常、大動脈弁は三尖弁と呼ばれ、3枚が密着した形をしています。しかし、生まれつき何らかの原因で弁が2枚で構成されていることがあり、2枚で構成された弁を二尖弁と言います。この弁が2枚しかないと、狭窄しやすくなるのです。

大動脈弁が二尖弁になっている場合、年齢がより若いうちから弁の狭窄が進みやすく、さまざまな症状が早いうちから現れるようになります。

後天的な原因

後天的な原因には、リウマチ熱や加齢、動脈硬化などが挙げられます。

リウマチ熱は、A群溶血性連鎖球菌(溶連菌)に感染した後に起こる炎症性の合併症です。関節や神経、皮膚などにも炎症症状が起こりますが、心臓に炎症が起こった場合には、特に弁に炎症が起こります。多くの場合は、子どもの頃にかかりますが、成人してから後遺症として大動脈弁狭窄症を発症することもある病気です。

加齢や動脈硬化も後天的な原因の一つです。高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病は動脈硬化のリスク因子としても知られています。動脈硬化は血管に起こるものと考えられがちですが、弁にも石灰化として動脈硬化は起こります。

近年では、抗菌薬の普及や衛生環境の向上により、リウマチ熱による大動脈弁狭窄症は減少しています。しかし、高齢化による大動脈弁の石灰化性の大動脈弁狭窄症が増えてきています。動脈硬化は日々の生活習慣の改善で予防できるものであるため、禁煙を心がけたり肥満を解消したりすることが大切です。

大動脈弁狭窄症の診断・検査方法

大動脈弁狭窄症は、初期の段階では自覚症状がないために、中高年以降にほかの心臓の検査をしているときや心雑音で見つかることも少なくありません。ここでは、大動脈弁狭窄症では問診や聴診のほかにどのような検査を行っているのかを紹介します。

心電図検査

心電図検査は心臓の異常を発見するために有用な検査のひとつです。胸や手足に電極を付けて、心臓から出る電気信号をグラフ化する検査で、左心室の肥大の程度や左室に電気信号が届いているか(左脚ブロック)の有無を確認しています。検査自体に痛みはなく、検査時間も10分ほどです。

胸部X線検査

胸部X線検査は、胸にX線を当てて心臓の内部の状態を調べる検査です。大動脈弁狭窄症になっても、しばらくは機能を維持しようとして特に大きな変化は見られません。しかし、病態が進行すると、左心肥大を引き起こします。

この検査では、心肥大を起こしていないか、大動脈の拡大は起きていないかを確認します。検査中の痛みはありませんが、わずかながら放射線の被ばくを受けます。そのため、妊娠中の女性はこの検査を受けることができません。

心エコー検査

心エコー検査は超音波を使って、心臓の動きを確認する検査です。エコー検査にはいくつかの方法があり、ドップラー法、断層心エコー法、経食道エコー法などがあります。大動脈弁狭窄症の重症度を診断するためには、この心エコー検査が欠かせません。

心臓カテーテル検査

大動脈弁狭窄症で重要な診断基準となる左室内と大動脈内の圧力差を測定するために行うのが、心臓カテーテル検査です。太ももなどからカテーテルを挿入し、左心室にカテーテルを留置して大動脈側に引き抜くことで、双方の圧力差を測定しています。

これまでの検査と比べて、切開や出血を伴う検査です。検査中は局所麻酔を使用するため、痛みを軽減できるように配慮されています。

大動脈弁狭窄症の治療法

大動脈弁狭窄症は病態やライフスタイルに合わせて、内服治療、カテーテル治療、手術治療を行っています。ここではそれぞれの治療法について解説します。

内服治療

軽症の場合に選択される治療法が、薬を服用して状態を管理する内服治療です。使用する内服薬は心臓の負担軽減や不整脈予防、血栓予防を目的としています。

内服治療では長期的な病態の管理は難しいのが現状です。また、内服治療では弁の狭窄を改善できないため、根本的な改善のためにはカテーテル治療や手術治療を行う必要があります。

カテーテル治療

大動脈弁狭窄症の治療法のひとつとして、新しく選択肢に加わったのがカテーテル治療と呼ばれる治療法です。カテーテル治療で行われているのが、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)と呼ばれる術式です。

この術式では、従来の手術治療とは異なり、胸をメスで切り開くことはありません。また、心臓を一時的に止める必要もないため、体への負担が少ない治療法として注目を浴びています。

太ももの付け根からアプローチして、狭窄が起きている大動脈弁に生体弁を移植する方法で、術後の回復期間も短くなっています。

手術治療

大動脈弁狭窄症のスタンダードな治療法として用いられているのが手術治療です。手術治療では、硬くなった自分の大動脈弁を取り除き、新しい人工弁を植え込む「大動脈弁置換術」という術式が用いられています。

いずれも、一時的に心臓を止める必要があり、人工心肺装置や人工呼吸器を使用して全身麻酔下で行います。カテーテル治療に比べ手術時間は長くなる傾向にあり、術後の回復に要する時間も長くなります。

このように大動脈弁狭窄症の根治治療にはカテーテル治療と手術治療があります。また使用する弁は機械弁と生体弁がある他、自分の心膜を使って弁を作る方法もあり、ライフスタイルや年齢によって決定されます。どの治療方法、弁になるかは医師との相談により決定する場合がほとんどです。

まとめ

大動脈弁狭窄症は、心臓の弁がうまく開かないことで、心臓から全身に十分な血液が送り出せない病気です。初期段階では自覚症状はありませんが、進行すると、息切れや胸の痛み、心不全などを引き起こし、突然死のリスクもあるため早期発見・早期治療が必要です。

検査には心電図検査やX線検査、心エコー検査などがあり、いずれも心臓の機能を詳しく調べる検査です。大動脈弁狭窄症は、軽度の場合内服薬で治療しますが、根本的な治療はできません。根治治療のためには、手術やカテーテル検査が必要です。気になる症状があれば、循環器科などで詳しい検査を受けましょう。

当院では大動脈弁形成術のエキスパートである國原先生を始め、豊富な経験を持つ外科医を始めする心臓外科のスタッフ一同が一丸となって、患者様お一人お一人の立場に最適な治療、手術を行っていきます。

「すべては患者様のために」をスローガンに、患者様のことを第一に考え、思いやりのある温かい医療を提供してまいります。心臓疾患でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修医師

宇都宮記念病院

心臓外科國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。