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大動脈基部瘤

大動脈基部瘤とは?

大動脈基部瘤

大動脈基部瘤とは、心臓から全身に血液を運ぶ最大の血管である大動脈の壁が病的に膨む疾患である、大動脈瘤の一種です。

文字通り大動脈の基部、つまり大動脈が心臓に接続している部分に発生します。この部分には、心臓から大動脈に流出した血液が心臓に逆流することを防ぐ役割を果たしている大動脈弁がある場所です。

そのため他の部位にできる大動脈瘤と異なり、大動脈基部が膨らむために、大動脈弁の位置がずれてしまい、大動脈から心臓に血液が逆流することがあります。そのために、心臓に過度に負担がかかり、かつ体内に送り込まれる血液が少なくなってしまう状況が生じることが大動脈基部瘤の症状のひとつです。

また大動脈基部には、心臓そのものに酸素や栄養分を供給している冠状動脈の起始部が存在しています。したがって、この部分に動脈瘤ができ、冠状動脈への血流が障害されてしまうと、心臓が酸素不足に陥ってしまい、その結果狭心症や心筋梗塞と同じ状態になることも大動脈基部瘤の症状といえます。

また、血液の塊である血栓を形成して塞栓症と呼ばれる疾患の原因となることや、瘤が大きくなりすぎて大動脈が破裂したり、瘤そのものが近くの構造物を圧迫したりすることもあります。

大動脈基部瘤の症状

そもそも大動脈瘤は、体内で最も太い血管でもある大動脈の一部に瘤のような膨らみができる状態ですが、瘤は徐々に成長していくことが一般的です。瘤ができ始めた頃は全く自覚症状がないことも多くあり、初期段階で発見することは困難です。

ただし時間の経過とともに瘤が大きくなると、さまざまな症状を引き起こすことがあります。その症状は主に大動脈瘤が大きくなるために生じる症状、そして大きくなった大動脈瘤が破裂してしまうために生じる症状の2つに分けることができます。

大動脈基部瘤が大きくなるために生じる症状

大動脈基部には大動脈弁や冠状動脈の起始部が存在しています。大動脈基部に瘤ができることで、周囲にあるこれらの構造物が圧迫されて影響が出ます。

特に心臓から全身に血液が送られる出口に障害が生じますので、全身や心臓に適切に酸素や栄養が送られなくなることが、大動脈基部瘤が大きくなるために生じる症状の背景に存在しています。また一度大動脈に流出した血液が心臓に戻ると、血圧が大きく変動することにもなります。

全身や心臓に十分な酸素や栄養が送られなくなると、体を動かしたときに必要となる酸素や栄養分が十分に供給できなくなってしまいます。そういった状態になると、以下のような症状があらわれます。

  • 運動時の息切れ
  • 運動時の胸痛、胸部の不快感、締め付けられるような痛み
  • 疲労を感じやすくなる
  • 動作に伴う脈の乱れ(不整脈)、心臓の鼓動が速くなったり、動悸がしたりする感覚

さらに大動脈基部瘤の症状が進行すると、軽い運動や日常生活における軽い作業でさえも酸素の供給が追いつかなくなってしまい、以下のような症状があらわれます。

  • 安静時の息切れ
  • 階段を登るなどの日常的な動作による胸痛

また血圧が大きく変動すると、脳や全身に安定して動脈血(肺を循環して酸素を取り込んだ血液)を送ることができなくなります。そのために急激な血圧の低下を引き起こして、以下のような症状があらわれます。

  • 活動量を増やしたときの脱力感
  • 立ち上がったりしたときのふらつき、一過性の意識消失(失神)
  • 立ち上がったりしたときの激しい動悸

しかし実際のところはほとんどの人に症状はなく、あったとしても生活に支障が出るレベルにまで悪化するまでには、時間がかかることが一般的です。

大動脈基部瘤が破裂すると生じる症状

症状がないことが多い大動脈基部瘤ですが、破裂すると状態は一変します。全身に血液を送る出発点ですから、一気に生命の危機に瀕する状態へと進行します。

破裂するときは、先行して背中の上部に激しい、鋭い痛みを感じることがあります。肩こりだと思ってマッサージをしても、一向に改善しない痛みです。

また突然呼吸が苦しくなったり、意識を失ったりすることもあります。いわゆるショック状態になると、心拍数は上昇し、手足が冷たくなり、異常な発汗が認められることもあります。

適切な処置が施されなければ、状態は一気に悪化して心肺停止に至ることもあります。ですから、上記に挙げたような症状が出た場合は、できる限りすぐに救急車を呼んでください。

大動脈基部瘤の原因

大動脈基部瘤は、他の動脈瘤と同じく大動脈の壁の一部が弱くなってしまうことで膨らみができてしまいます。ただ現在のところなぜ膨らみができるのか、その理由が完全に解明された訳ではありません。

理由はわかってはいないものの、動脈瘤を作りやすい危険因子はある程度わかっています。

例えば動脈硬化や喫煙、また十分に管理されていない高血圧はよく知られている危険因子です。そのほかにも高脂血症や糖尿病などの生活習慣病、ストレスや不規則な生活も、動脈瘤の危険因子となっています。

なおこれらの危険因子に加え、動脈瘤は時間をかけて形成されることもあって、加齢もリスク因子のひとつとして考えられています。

また、動脈瘤の危険因子となる遺伝性疾患もあります。代表的なものはマルファン症候群です。マルファン症候群やその類似疾患であるロイス・ディーツ症候群は、体内の結合組織に異常がみられる疾患です。

これら遺伝性の結合組織異常症では、血管壁の結合組織がもろいため、若くして動脈瘤ができる傾向があります。早ければ10歳になる前に、動脈瘤ができることが知られています。

大動脈基部瘤の診断

症状からはなかなかわかりにくい大動脈基部瘤ですが、疑われる症状などがあれば、診断をつけるために画像診断を行います。次にいくつかの画像診断をご紹介します。

胸部X線検査(レントゲン)

胸部X線は、少量のX線を使用して、肺、心臓、胸壁などの胸部内部の構造物の二次元画像を作成します。

健診などでも一般的に使用されることが多いので、これまで一度は胸部X線検査を受けたことがあるでしょう。二次元画像ですので、大動脈基部瘤の大きさや形状は正確にはわかりません。ただ動脈瘤がある程度の大きさになると、大動脈基部の膨らみがわかることがあります。まれではありますが、健診などで撮影された胸部X線写真で、偶然大動脈基部瘤が見つかることもあります。

コンピューター断層撮影(CTスキャン)

CTスキャンは、X線を使って心臓や血管の3次元画像を撮影する検査です。

胸部のCTスキャンを行うと、立体的なCG映像になるので心臓や大動脈の形態がよくわかります。大動脈基部瘤の大きさや形状、また周辺の構造物との位置関係など、かなり詳細に状況を把握することが可能になります。

心臓超音波検査

高周波の音波を用いて心臓を撮影します。

心臓超音波(心エコー)検査では、リアルタイムで心臓や大動脈弁の動き、また血液の流れる向きを把握することができます。

心臓超音波検査は侵襲の低い検査ですので、何度も繰り返し行うことができる利点があります。正確に行うためにはある程度のスキルが必要となりますが、逆に熟練した人が検査を行うと、多くの情報を得ることが可能になります。

血管造影検査(アンギオグラム)

血管造影は、動脈瘤を発見するためにカテーテルと呼ばれる細くて柔軟な管を手や足の血管から挿入し、カテーテルを通して造影剤を注入することで行う、特殊なX線検査です。

血管造影を行うことで、大動脈基部瘤の大きさや形状がわかりますし、実際に大動脈内でどの程度血液が逆流しているのか、冠状動脈への血流障害はどの程度あるのかなど、動脈内の血液の流れがよくわかります。

なおこのほかにも心臓の電気的な活動を評価するための心電図検査、また医師による監督の下で運動による負荷をかけ、心臓への負担がどの程度生じているのかを測定するトレッドミルテストなども合わせて行うことがあります。

大動脈基部瘤の治療法

大動脈基部動脈瘤の治療は、注意深い経過観察、薬物療法、生活習慣の改善で十分な場合があります。ただし、大動脈の一部と大動脈弁を交換する手術が必要となる場合もあります。

大動脈基部瘤の内科的治療法

大動脈基部瘤は、破裂する危険性が低い場合は内科的に経過を観察します。定期的に診察して症状の変化がないかを確認するだけでなく、心臓超音波検査、胸部CT検査などを行い、動脈瘤の大きさに変化が生じていないかを確認します。

ただし経過観察する場合でも、動脈瘤破裂の可能性を高める危険因子があれば、積極的に治療をします。特に高血圧の管理はとても重要ですので、血圧の治療薬を用いて厳重に血圧を管理することになります。

そのほかにも肥満や喫煙は動脈硬化の危険因子になります。したがって肥満を解消するために定期的な運動やストレスの回避、バランスの取れた食事や十分な睡眠を確保できる生活習慣を確立できるように努めます。また禁煙は絶対に取り組まなければいけません。

大動脈基部瘤の外科的治療法

次に大動脈基部瘤に対する外科的治療法についてご紹介します。

大動脈基部置換術

大動脈基部置換術は、別名ベントール(Bentall)手術と呼ばれるもので、大動脈基部動脈瘤ができた大動脈基部と大動脈弁を入れ替える手術です。

この手術では、瘤のできた大動脈を人工血管に置き換えるだけでなく、大動脈弁も入れ替えます。人工血管と一緒に入れ替える大動脈弁は、人工物でできた機械弁を用いることが一般的ですが、ウシやブタの生体組織を利用した生体弁を利用することもあります。どちらの弁を利用するかは、それぞれメリットとデメリットがありますので、手術を必要とする方の状況に応じて使い分けています。

なお大動脈基部置換術では冠状動脈はそのまま利用します。したがって人工血管に冠状動脈を接続し直す必要がありますが、その方法にはいくつかの手法があり、合併症の少ない方法が考案されています。

自己弁温存大動脈基部置換術

大動脈基部の置換術には、大動脈弁を温存する術式もあります。

別名デービット(David)手術やヤク−(Yacoub)手術とも呼ばれる自己大動脈弁温存手術は、大動脈弁を交換せずに動脈瘤を修復する方法です。

大動脈基部動脈瘤は、大動脈基部に動脈瘤ができる疾患であり、大動脈弁そのものには大きな問題は生じていないため、大動脈弁を温存することは理にかなった術式であるとも言えます。

この術式では、動脈瘤のできた大動脈基部は人工血管に置き換えますが、大動脈弁は自分自身の弁を残して利用しますので、人工弁にまつわるメリットやデメリットを考える必要がなくなります。

ただし大動脈弁を動脈瘤のできた大動脈から切り離し、人工血管に付け替えることは非常に難易度が高く、決して容易な手術ではありません。したがって、しっかりと経験を積んだ医師だけが行う手術でもあります。

当院では大動脈弁形成術のエキスパートである國原先生が自己大動脈弁温存手術に積極的に取り組んでおりますので、是非一度ご相談ください。

まとめ

大動脈基部動脈瘤について、その病態や原因、治療法までご説明しました。なかなか症状が表れにくいため、病状が進行してから気づかれることもある病気です。

しかし心臓外科手術の進歩に伴い、安全にかつ確実な手術が行われるようになってきています。大動脈基部動脈瘤の治療においても、同様です。

大動脈基部動脈瘤と診断された方は、ぜひ適切な治療方針について、主治医や心臓外科医とよく相談されることをお勧めいたします。

当院では大動脈弁形成術のエキスパートである國原先生を始め、豊富な経験を持つ外科医を始めする心臓外科のスタッフ一同が一丸となって、患者様お一人お一人の立場に最適な治療、手術を行っていきます。

「すべては患者様のために」をスローガンに、患者様のことを第一に考え、思いやりのある温かい医療を提供してまいります。心臓疾患でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修医師

宇都宮記念病院

心臓外科國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。