大動脈弁疾患なら宇都宮記念病院

028-622-1991
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大動脈弁疾患
大動脈弁疾患

私たちの心臓は1日に約10万回以上、収縮と拡張を繰り返して生涯休むことなく動いています。しかし、加齢やさまざまな原因で心臓の血管が脆くなったり、弁に異常が起こったりすることがあるのです。

心臓の病気もいくつかありますが、心臓の出口にある大動脈弁に異常が起きているものを大動脈弁疾患と呼びます。

今回はこの大動脈弁疾患とはどのようなものなのか、それぞれの病気の症状や原因、治療法を解説します。本記事を参考に、気になる症状があれば病院を受診しましょう。

大動脈弁疾患とは?

大動脈弁疾患とは、心臓の出口に血液が逆流しないために設置されている「大動脈弁」が狭くなったり緩んだりしたことで起こる病気です。

どちらも初期の段階では自覚症状がなく、進行するにつれて症状が現れます。胸の痛みや息切れ、呼吸困難など病気によって症状は異なりますが、いずれも根治のためには手術が必要です。

心臓と大動脈弁の働き

心臓は私たちの体で特に重要な役割を担っている臓器です。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしており、1分間に60~100回もの規則的な拍動を繰り返しています。

心臓の大きさは200~300gで、4つの部屋と4本の大きな血管で構成されています。4つの部屋はそれぞれ、右上が右心房、右下が右心室、左上が左心房、左下が左心室と呼ばれ、それぞれの部屋には全身または肺へと続く血管がつながっています。

この心臓の4つの部屋を仕切っているのが「弁」と呼ばれる構造です。弁は、血液の流れを一方向に維持して逆流を防ぐ役割があります。右心房と右心室の間には「三尖弁」、右心室の出口には「肺動脈弁」、左心房と左心室の間には「僧帽弁」、左心室の出口には「大動脈弁」があり、それぞれの部屋の内圧や駆出量を維持しています。

大動脈弁は、肺から戻ってきた酸素を多く含む血液を全身に向けて送り出すときに通過する弁で逆流を防ぐ役割を担っています。

大動脈弁狭窄症とは?

大動脈弁狭窄症とは、心臓と大動脈を仕切っている大動脈弁が硬化して動きが悪くなることで、血液を全身に送り出しにくくなっている状態です。全身に血液がうまく流れないことで心臓の負担が大きくなり、徐々に心臓の機能が低下していきます。

大動脈弁狭窄症は、軽度の場合であれば長期にわたって症状が現れないこともしばしばあります。しかし心臓の負担が大きくなり病状が進行すると、失神、狭心痛、心不全による呼吸困難などの症状が起こります。

軽度の場合は、内服薬で全身状態を管理しながら経過観察を行います。しかし、薬だけでは弁の改善はできません。そのため、根本的な解決のためには手術やカテーテル治療などの外科治療を行います。

現在では、外科治療の術式も選択肢が増えており、病態に合わせて負担の少ない方法を選択できるようになってきました。

大動脈弁狭窄症の症状

大動脈弁狭窄症は、軽度の場合はほとんど自覚症状がありません。大動脈弁が狭くなると、左室から大動脈に血液が流れにくくなるため、左室に大きな負荷がかかります。すると、左室の心筋が分厚くなり心肥大を引き起こしますが、一方で心臓はポンプ機能を維持しようと働きます。そのため、初期の段階では目立った症状は現れません。

しかし、進行するにつれてポンプ機能が維持できなくなり、次第に狭心痛や失神、左心不全として呼吸困難などの症状が現れます。

  • 狭心痛:冠動脈への酸素の供給が間に合わなくなるために起こる
  • 失神:ポンプ機能が低下して心臓から全身に送り出される血流量が減るために起こる
  • 呼吸困難:左心房・左心室に血液が滞留して、肺うっ血や肺水腫になることで起こる

このような症状が現れるようになるのは50~60歳代になってからです。多くの場合は長期間無症状のまま日常生活を送っており、別の病気の検査や心雑音で大動脈弁狭窄症を指摘されます。

大動脈弁狭窄症の原因

大動脈弁狭窄症の原因はいくつかあり、大きく先天性と後天性に分けられます。

先天性の原因は大動脈弁の形の異常があります。大動脈弁は通常3枚の弁尖で構成される「三尖弁」と呼ばれる構造をしています。しかし、生まれつき大動脈弁が2枚の弁突で構成される「二尖弁」の場合があります。

この弁が2枚しかないと、狭窄しやすくなると考えられています。この場合、若いうちから弁の狭窄が進みやすく、早い段階で病状が進行します。

後天性の原因には、リウマチ熱や加齢、動脈硬化などが挙げられます。

リウマチ熱は、溶血性連鎖球菌(溶連菌)に感染した後に起こる炎症性の合併症です。関節や皮膚、神経に起こる病気として知られていますが、心臓にも炎症が起きる病気です。心臓では、特に弁に炎症が起こります。多くの場合は、子どもの頃に発症しますが、成人してから後遺症として大動脈弁狭窄症を発症することもある病気です。

加齢や動脈硬化も大動脈弁狭窄症の後天的な原因です。加齢だけでなく、高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病は動脈硬化のリスク因子としても知られています。

大動脈弁狭窄症の治療法

大動脈弁狭窄症では、進行度やライフスタイルに合わせて、内服治療、手術治療、カテーテル治療の3つの治療法を選択します。

内服治療は、軽度の場合に選択される治療法です。心臓の負担軽減、不整脈予防、血栓予防などを目的とした薬剤を内服して状態を管理します。しかし、内服治療では、弁の狭窄を改善できません。

手術治療は、大動脈弁を取り換える「大動脈弁置換術」がスタンダードで、使用する弁は機械弁と生体弁がある他、自分の心膜を使って弁を作る方法もあり、患者さんの状態などを考慮して術式を決定します。

いずれも、一時的に心臓を止める必要があり、人工心肺装置や人工呼吸器を使用して全身麻酔下で行います。カテーテル治療に比べ手術時間は長くなる傾向にあり、術後の回復に要する時間も長くなるのが特徴です。

カテーテル治療は、大動脈弁狭窄症の新しい治療法として確立されました。カテーテル治療で行われているのが、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)と呼ばれる術式です。この術式では、従来の手術治療とは異なり、胸をメスで切り開くことはありません。また、心臓を一時的に止める必要もないため、体への負担が少ない治療法として注目を浴びています。

太ももの付け根からアプローチして、狭窄が起きている大動脈弁に生体弁を移植する方法で、術後の回復期間も短くなっています。

大動脈弁閉鎖不全症とは?

大動脈弁閉鎖不全症とは、心臓と大動脈を仕切っている大動脈弁がきちんと閉じなくなっている状態です。何らかの原因で、大動脈弁がきちんと閉じなくなると、左心室から大動脈に送った血液が逆流してしまいます。

大動脈弁閉鎖不全症は、弁の閉鎖不全が起こっていてもしばらくは自覚症状がありません。大動脈弁狭窄症と同じように、しばらくは心臓がその変化に順応するためです。しかし、徐々に心臓のポンプ機能が低下すると、運動時の息切れや動悸などの症状が現れるようになります。

治療には内服治療と手術治療があり、患者さんの状態に応じて選択します。手術方法にもいくつかの術式があるため、さまざまな検査結果やライフスタイルに応じて慎重に検討していくことが大切です。

大動脈弁閉鎖不全症の症状

大動脈弁閉鎖不全症は、軽度の場合には目立った症状は現れません。軽度のままであれば生涯無症状の人もいます。

進行している場合でも、弁の閉鎖不全が起こっていてもしばらくは自覚症状がありません。しばらくは心臓が血液の逆流による変化に順応します。しかし、徐々に心臓のポンプ機能が低下すると、運動時の息切れや動悸などの症状が現れるようになります。この状態を慢性大動脈弁閉鎖不全と言います。

慢性大動脈閉鎖不全の場合、階段や坂道の上り下りや、運動をしたときなどに息切れや動悸が起こります。進行すると、ちょっとした運動でも息が上がったり、安静時や夜間でも呼吸が苦しくなったりします。また、この頃になると不整脈や狭心痛、失神などの症状も現れるのが特徴です。

大動脈弁閉鎖不全症が原因で、急激に心臓の状態が悪くなる場合、急性大動脈弁閉鎖不全症と区別します。急激に左心室の機能が低下すると、肺うっ血や肺水腫を引き起こします。この状態になると、全身に血液を送る力が弱くなるため、息切れや呼吸困難などの症状のほかに、むくみや疲労感などの症状も現れるのが特徴です。

大動脈弁閉鎖不全症の原因

大動脈弁閉鎖不全症の原因は、大きく「弁そのものの異常」と「大動脈の入り口部分(大動脈基部)の異常」の2つに分けられます。

弁そのものの異常には、以下のような原因があります。

  • リウマチ熱の後遺症
  • 大動脈弁の先天的異常(二尖弁)
  • 感染性心内膜炎
  • 加齢
  • 動脈硬化
  • 膠原病
  • 梅毒など

加齢や喫煙、高血圧、高脂血症、糖尿病などは動脈硬化を引き起こす要因です。生活習慣を見直して予防することが大切です。リウマチ熱、感染性心内膜炎、梅毒などの感染症は菌が弁に付着して弁を壊してしまいます。そのため、感染したら適切な治療が必要です。

大動脈基部の異常には、以下のような原因があります。

  • 大動脈弁輪拡張症
  • マルファン症候群
  • 大動脈解離
  • 大動脈炎症候群
  • 強直性脊椎炎
  • 反応性関節炎
  • 梅毒など

大動脈弁輪拡張症やマルファン症候群は生まれつきの病気により、大動脈が拡張することで、大動脈弁も引き延ばされてしまいます。大動脈炎症候群や強直性脊椎炎、反応性関節炎は大動脈に炎症を起こす病気です。梅毒は弁自体も破壊しますが、大動脈部分に炎症が起こると、大動脈基部を破壊してしまいます。

心臓の弁の疾患は、生活習慣病や加齢が原因となることもありますが、先天性の二尖弁やマルファン症候群、リウマチ熱の後遺症などで若い人にも発症することがあります。そのため、若年層でも十分注意しなければならない病気です。

大動脈弁閉鎖不全症の治療法 

大動脈弁閉鎖不全症の治療は内服治療と手術治療を行います。

内服治療は、軽度や中等度の場合に選択される治療法です。原因となっている病気の改善を目的とした治療や、心不全の改善のための薬を使用します。また、食生活でも塩分を控えた食事を心がける必要があります。

根治治療のためには、手術治療を行います。手術で用いる術式は「大動脈弁置換術(AVR)」や「大動脈弁形成術」です。

大動脈弁置換術は、閉鎖不全を起こしている大動脈弁を切除して、機械弁または生体弁に置き換える手術です。心臓を一時的に止める必要がありますが、現在では心停止の時間も短縮され安全な手術として確立されつつあります。

大動脈弁形成術は、人工弁に置換せずに弁を形成する手術です。機械弁を植え込むと抗凝固剤を一生服用しなければなりません。すると、血が固まらないため指を切ったり、転倒や鼻血などの際に出血し続ける危険性がついて回ります。そのため、歯の治療や大きな手術を予定している人、料理人、妊婦などは、弁置換術が行なえませんでした。逆に抗凝固剤を飲み忘れると機械弁にたちまち血栓が付いて弁が動かなくなったり脳梗塞を起こし、再手術が必要になることがあります。

一方、生体弁を使用した弁置換では抗凝固剤を一生服用することはありませんが、弁が次第に劣化してくるため、手術から10年から20年後に再び弁置換術を受ける必要があります。生体弁の耐久性は若ければ若いほど短くなってきます。

大動脈弁形成術では、機械弁による弁置換と異なり血液を固まりにくくする抗凝固剤を服用する必要がないため、機械弁による弁置換術を受けられない人でも手術を受けることができます。また、とりわけ若年者では生体弁を使用した弁置換よりは耐久性があるため、抗凝固剤を避けたい若年者には最適な術式です。

このように大動脈弁閉鎖不全症はいくつかの治療方法があります。病態やライフスタイルに応じて、主治医とよく相談して治療方針を決定しましょう。

まとめ

心臓の出口にある大動脈弁に異常が起きているものが大動脈弁疾患です。大動脈弁疾患には大動脈弁狭窄症と大動脈弁閉鎖不全症があり、それぞれ発症する原因は異なります。

また、軽度の場合には自覚症状がなく進行することで息切れや失神、狭心痛、呼吸困難などの症状が現れます。現在では、内服治療や外科治療、カテーテル治療などいくつかの治療法を選択できるため、主治医と相談の上、治療方針を決定しましょう。

大動脈弁疾患は若年層にも発症することがあります。本記事を参考に、気になる症状があれば病院を受診しましょう。

当院では大動脈弁形成術のエキスパートである國原先生を始め、豊富な経験を持つ外科医を始めする心臓外科のスタッフ一同が一丸となって、患者様お一人お一人の立場に最適な治療、手術を行っていきます。

「すべては患者様のために」をスローガンに、患者様のことを第一に考え、思いやりのある温かい医療を提供してまいります。心臓疾患でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修医師

宇都宮記念病院

心臓外科國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。