大動脈瘤破裂の治療なら宇都宮記念病院

028-622-1991
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大動脈瘤破裂
大動脈瘤破裂

大動脈瘤破裂と言う病気をご存じですか?大動脈瘤破裂は、全身に血液を送る大動脈の一部が何らかの理由で拡大し、治療しないまま進行して破裂してしまう病気です。大動脈瘤が破裂すると、死亡率はとても高く、すぐに治療を開始しなければ手術でも助かる見込みは少ないため、発見した段階で経過観察や適切な治療が必要です。

今回は、この大動脈瘤破裂を引き起こす大動脈瘤とはどのような病気か、大動脈瘤破裂の症状と併せて、大動脈瘤の原因や症状、治療法などを解説します。

大動脈瘤破裂とは?

大動脈瘤破裂は、全身に血液を送る大動脈が動脈硬化などの原因で「こぶ(瘤)」ができ、治療しないまま過ごしていると、こぶがさらに大きくなって破裂してしまう病気です。

大動脈瘤が破裂すると、胸や背中などにこれまで感じたことのないような強い痛みを感じます。この場合すぐに治療が必要です。また、死亡率はとても高く、手術でもすぐに手術しないと助かる見込みは少ないため、動脈瘤を発見した段階で経過観察や適切な治療が必要です。

動脈の構造と大動脈の働き

私たちの体は全身に血管が張り巡らされており、その中を血液が流れることで酸素や二酸化炭素、栄養、老廃物などを運搬しています。

血管は大きく分けると、動脈・静脈・毛細血管で構成され、大動脈瘤や大動脈瘤破裂に大きく関係する動脈は、心臓から血液を送り出して体のいたるところに酸素と栄養を届ける役割を担っています。

動脈は内膜、中膜、外膜の3層で構成されています。さらに内膜は「内皮細胞」と呼ばれる細胞でおおわれており、血液が固まるのを防いだり、血管を拡げたり、動脈硬化を防いだりしているのが特徴です。

大動脈とは、心臓から肺以外の全身に向かって血液を送る太い動脈で、直径2~3cm程度の太さをしている最も太い血管です。心臓から拍出された血液は、この大動脈を通って、脳や腎臓、肝臓などの臓器に栄養を運んでいます。

大動脈は、その形状に応じて上行大動脈・弓部大動脈・下行大動脈・腹部大動脈などと呼ばれており、この部分のいずれかにこぶができると大動脈瘤と呼びます。

大動脈瘤とは?

大動脈瘤は、動脈が部分的に大きくなって「こぶ(瘤)」のように一部分がボコっと飛び出ている状態です。通常2~3cmの太さの血管が3~4cmに膨らんだ状態です。

この大動脈瘤は、よく風船に例えられます。風船は、膨らみはじめのときは強い力を加えなければなかなか大きくはなりません。しかし、ある程度大きくなると少しの力でより大きく膨らみます。

大動脈瘤も同じように、発症までにはある程度の時間がかかりますが、発症後は徐々に大きくなる性質があるのです。そのため、定期的に検査を行い適切な時期に、人工血管へ置換する手術が必要になります。

大動脈瘤は瘤ができる部位ごとに以下のように分類されます。

  • 大動脈基部拡張症:大動脈弁の出口、冠動脈を分岐する大動脈基部が拡張した状態
  • 上行大動脈瘤:心臓から上に向かって走行している大動脈にできる瘤
  • 弓部大動脈瘤:上肢や頭に分岐する弯曲した大動脈にできる瘤
  • 下行大動脈瘤:弓部大動脈から横隔膜まで下に向かって走行している大動脈にできる瘤
  • 胸腹部大動脈瘤:胸部と腹部の大動脈にまたがってできる瘤
  • 腹部大動脈瘤:横隔膜より下の大動脈にできる瘤

また、大動脈瘤には血管壁の状態によって「真性大動脈瘤」「仮性大動脈瘤」「解離性大動脈瘤(大動脈解離)」の主に3種類に分類されます。

真性大動脈瘤

真性大動脈瘤は、内膜・中膜・外膜の3層の構造が保たれたまま、血管壁全体がこぶのように膨らんだ状態です。血管壁そのものには損傷はありません。血液が滞留することはなく、動脈硬化などが原因で起こる、最も発症率が高いタイプです。

仮性大動脈瘤

仮性大動脈瘤は、大動脈の一部が3層とも裂けた状態です。裂けた部分から血液が漏れ出してこぶを作ります。細菌感染や事故が原因で起こりますが、発症率は低いです。血圧が高くなると破裂しやすくなるため、血圧のコントロールが欠かせません。

解離性大動脈瘤(大動脈解離)

解離性大動脈瘤は大動脈解離ともいい、発症時に胸や背中に強い痛みを伴い、時に命に関わる病気としても知られています。内膜に亀裂ができて、内膜と中膜との間に血液が入り込み、裂け目がどんどん広がっていくタイプです。

大動脈瘤・大動脈瘤破裂の症状

大動脈瘤は大きさやできる部位が異なるものの、無症状のないまま大きくなることが多いです。そのため多くの場合は別の病気でCT検査やレントゲン検査を受けたときや、人間ドッグや健康診断を受けたときに発覚します。

多くの場合自覚症状はありませんが、胸部大動脈瘤が大きくなるにつれて稀に症状が現れることがあります。こぶが大きくなって、発声や嚥下のときに使う反回神経を圧迫すると、声がかすれたり、ものを飲み込むのが困難になったり、食べたものが気管に入ったりします(嗄声、嚥下障害、誤嚥)。

またさらに進行すると、胸や背中の痛み、血痰、息苦しさなどの症状が現れることもあります。このような症状が現れるときは、こぶが急速に大きくなっている可能性があり、いつ破裂してもおかしくない状態かもしれません。すぐに受診が必要です。

痩せている人に腹部大動脈瘤ができると、進行するにつれてお腹にこぶが目立つようになります。また、お腹を触ったときに、こぶに拍動を感じることもあるでしょう。しかしながら、腹部大動脈瘤も多くの場合はCT検査やレントゲン検査などで発見される場合がほとんどです。

胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤も気が付かないまま進行して破裂すると、胸や背中、お腹にこれまでに経験したことのないような激しい痛みを感じます。血管が破れて体腔に血液が流れだすと、血圧が急激に下がりショック状態になります。心筋梗塞のように突然死を招くこともあるため、早期発見と経過観察が重要な病気です。

大動脈瘤・大動脈瘤破裂の原因

大動脈瘤破裂を引き起こす大動脈瘤の原因のほとんどは、動脈硬化です。動脈硬化とは、動脈の血管が何らかの原因で硬くなって弾力が失われた状態です。

動脈硬化は、加齢に伴う老化でも起こりうるものですが、様々な危険因子により発症を早めることが分かっており、この危険因子を多く持つほど動脈硬化の発症が早まることが分かっています。特に危険と考えられている因子となるのが、喫煙、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病、肥満、ストレスです。

喫煙

たばこに含まれるニコチンは肺がんや脳卒中のリスクを高めるだけでなく、心拍数の増加や血圧上昇、血管の収縮を招きます。また、血液の粘度を高め固まりやすくして血栓を引き起こす作用もあり、これも動脈硬化の原因です。

1日20本以上もたばこを吸う人は、心臓病の発生のリスクが50~60%高まることが分かっています。さらに、たばこを吸う人はほかの危険因子にも影響します。動脈硬化だけでなく、健康のためにも禁煙を心がけましょう。

高血圧

高血圧とは文字通り、血圧が高くなっている状態です。動脈硬化が進みやすいとされている血圧は「収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上の場合」で、高ければ高いほど脳や心臓疾患のリスクを高めることが分かっています。

血圧が高いと血管に加わる圧力も高くなり、血管壁を傷つけやすい状態です。血管壁は加齢とともに脆くなりますが、圧力が高くなることでより進行させてしまいます。

高血圧もさまざまな病気のリスクを高めることから、塩分の高い食事には十分注意が必要です。また、高血圧は水分不足により血管疾患のリスクを高めることから、こまめな水分補給を心がけましょう。

脂質異常症(高脂血症)

脂質異常症とは血液中の脂質の値が基準値から外れた状態です。脂質異常症の診断に用いるのは、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪です。それぞれの基準値は以下のとおりです。

  • LDLコレステロール:140mg/dL以上(高LDLコレステロール血症)
  • HDLコレステロール:40 mg/dL未満(低HDLコレステロール血症)
  • トリグリセライド:150 mg/dL以上(高トリグリセライド血症)

この3つが動脈壁内に蓄積することで、動脈硬化が加速します。脂質異常症は狭心症や心筋梗塞のリスク因子としても知られていますが、大動脈瘤の発症にも大きく関係しています。脂質異常症の予防のためには、揚げ物やバター、生クリームなどの飽和脂肪酸の摂りすぎに注意が必要です。

糖尿病

糖尿病とは、すい臓から分泌されるインスリンと呼ばれるホルモンが十分に働かないために、血液中を流れるブドウ糖(血糖)が増えてしまう病気です。

糖尿病は、腎臓や目などの細い血管が先に障害され網膜症や腎症になるだけでなく、心臓や脳の血管の動脈硬化が進行します。また糖尿病ではない人に比べて、脳疾患や心臓疾患、動脈硬化などのリスクが高くなることが分かっています。

さらに高血圧や脂質異常症などが起こりやすく、動脈硬化の危険因子と相互の関係にあります。そのため、遺伝的な影響に加えて、食べ過ぎや運動不足、肥満などの生活環境の影響があるとされる2型糖尿病では生活習慣の見直しが大切です。

肥満

肥満の人は血液中の脂肪が増えすぎて、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの病気になりやすいことが分かっており、動脈硬化を加速させます。肥満の程度を表す指標のBMI(ボディ・マス・インデックス)では性別にかかわらず25以上の人を肥満としています。

肥満は生活習慣が大きく関係しています。暴飲暴食、脂っこい物・甘い物を好む、運動不足などは肥満の原因です。肥満解消はさまざまな病気のリスクを下げることから、この機会に生活習慣を見直してみましょう。

ストレス

適度なストレスは私たちが健やかに過ごすために欠かせないものです。しかし、過度なストレスは、血液や血管にもダメージを与えます。また、血糖値やコレステロール値を上昇させて血栓ができやすくなってしまうのです。さらにストレスは血圧を上昇させて血管に負担をかけるため動脈硬化を引き起こします。

そのため動脈硬化を予防するにはストレス発散が大切です。趣味や運動、息抜きの時間を作り、意識して気分転換しましょう。

大動脈瘤と大動脈瘤破裂の治療法

大動脈瘤ができると大動脈瘤破裂を引き起こす前に手術を行う必要があります。大動脈瘤が破裂した場合は、脈があるうちにすぐに手術が必要です。

また、手術の目的は通常の大動脈瘤の治療法ではなく、救命が最優先です。救命後もこれまでのような日常生活に戻れなくなる可能性があります。そのため、大動脈瘤がある程度大きくなれば手術を行うのが一般的です。

大動脈瘤の治療方法は「薬物治療」「手術治療」「カテーテル治療」の3つです。

薬物治療

薬物治療は主に血圧を下げる降圧剤を使用します。動脈硬化の危険因子である高血圧がある場合で、動脈瘤の拡大防止が目的です。しかし、動脈瘤そのものを小さくする効果はありません。根治のためには、手術やカテーテルによる治療が必要です。

手術治療

手術治療では「人工血管置換術」を行います。大動脈瘤ができている部位の血管を切除して、人工血管に置き換える手術です。開胸・開腹手術のため、手術時間や入院期間は長くなる傾向にありますが、大動脈瘤のスタンダードな手術で、安全性も確立されています。

カテーテル治療

カテーテル治療では「ステントグラフト内挿術」を行います。脚の付け根からカテーテルを挿入し、ステントと呼ばれるバネ状の金属が付いた人工血管を動脈瘤ができている部位に挿入する術式です。

手術治療のように胸やお腹を切開しないため、体の負担が少ないのが特徴です。手術治療とカテーテル治療にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、どちらを選択するかは、患者さんの病態やライフスタイルをもとに決定します。

まとめ

大動脈瘤破裂は、全身に血液を送る大動脈が何らかの理由で拡大して大動脈瘤となり、治療しないままでいると症状が進行して破裂してしまう病気です。

動脈瘤が破裂すると死亡率はとても高く、すぐに治療を開始しなければ手術でも助かる見込みは少ないでしょう。また、進行するまでは無症状の場合が多いため、健康診断やほかの病気の検査で偶然発見されることも珍しくありません。

動脈硬化が大きな原因となるため、まずは日常生活の改善が大切です。現在では根治治療として2つの治療法があります。病態やライフスタイルに応じて医師と相談して決定しましょう。

当院では大動脈弁形成術のエキスパートである國原先生を始め、豊富な経験を持つ外科医を始めする心臓外科のスタッフ一同が一丸となって、患者様お一人お一人の立場に最適な治療、手術を行っていきます。

「すべては患者様のために」をスローガンに、患者様のことを第一に考え、思いやりのある温かい医療を提供してまいります。心臓疾患でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修医師

宇都宮記念病院

心臓外科國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。