心臓オフポンプ手術なら宇都宮記念病院

028-622-1991
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心臓オフポンプ手術
心臓オフポンプ手術

狭心症や心筋梗塞の手術をするときに「冠動脈バイパス手術(CABG)」と呼ばれる術式で治療を行います。この冠動脈バイパス手術(CABG)は、人工心肺装置を使って一時的に心臓を停止して行うのが一般的でしたが、本邦では人工心肺装置を使用せずに手術を行う「オフポンプ冠動脈バイパス手術(OPCABG)」が半数以上を占めています。

今回は、この心臓オフポンプ手術とはどのような術式なのか、この術式を行う病気と適応、利点・欠点、手術方法を解説します。

冠動脈バイパス手術とは? 

冠動脈バイパス手術(CABG)は、冠動脈の狭窄や閉塞で起こる狭心症や心筋梗塞や狭心症に対して行われる手術です。

全身麻酔のもと胸を開いて行う手術(開胸手術)で、狭くなった冠動脈の末梢血管に、胸や脚から採取した新しい血管(グラフト)をつなぐことで、新しい血液の流れを作ります。これにより、狭心症や心筋梗塞の原因となる心筋の血流不足を根本的に改善することが可能です。

使用するグラフトは、脚の大伏在静脈(だいふくざいじょうみゃく)や、肋骨の内側にある内胸動脈、前腕の橈骨動脈(とうこうつどうみゃく)、胃の胃大網動脈などです。これらの血管は一部を採取しても、その部位の機能そのものには影響がなく、十分な太さがあるため狭窄を起こしにくくなっています。

冠動脈バイパス手術には、一時的に心臓を止めて人工心肺装置を使う「オンポンプ冠動脈バイパス手術(ONCABG)」と、人工心肺装置を使用せず心臓を動かしたままで行う「オフポンプ冠動脈バイパス手術(OPCABG)」があります。どちらの方法にも利点・欠点があるため、患者さんの病態や年齢、既往歴などを総合的に判断して決定します。

オフポンプ冠動脈バイパス手術(OPCABG)とは?

オフポンプ冠動脈バイパス手術とは、人工心肺装置を使用せずに冠動脈の狭窄が起きている部分をバイパスする手術です。

1990年代にこの術式が行われるようになり、その後多くの施設で行われるようになりました。現在、日本では冠動脈バイパス手術のおよそ2/3がこのオフポンプ冠動脈バイパス手術によって行われています。

心臓を動かしたまま手術を行うため、人工心肺装置を使う場合に比べて患者の負担は少なくなります。一方で手術中に心臓が動いていることで手術の難易度は高くなります。冠動脈は心臓の表面を走行していますが、小さく細い血管であるため心臓の動きで血管を傷つけてしまうこともあります。そのため、執刀医をはじめとした医師の高い技術が必要です。

オンポンプ冠動脈バイパス手術(ONCABG)との違い

オンポンプ冠動脈バイパス手術とは、人工心肺装置を使用して冠動脈の狭窄が起きている部分をバイパスする手術です。

オンポンプ冠動脈バイパス手術は世界各国で30年以上も前から行われている手術です。一時的に心臓の動きを止めるため、細い冠動脈を扱いやすくオフポンプ冠動脈バイパス手術と比べると冠動脈を傷つけにくくなっており、術後の経過も安定しています。

また、2枝以上の病変にも適しており、複数個所をバイパスする手術でよく用いられています。人工心肺装置を使用すると、脳梗塞や出血のリスクがあり、腎臓にも負荷がかかるため、患者の病態や既往歴などを考慮して選択しなければなりません。

オフポンプ冠動脈バイパス手術が必要となる病気

オフポンプ冠動脈バイパス手術が必要となる病気は狭心症と心筋梗塞です。ここでは、心臓と冠動脈の働きとそれぞれどのような病気なのかを解説します。

心臓と冠動脈の働き

心臓は私たちの体で重要な役割を担っている臓器です。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしており、1分間に60~80回もの拍動を繰り返しています。1日にすると、10万回以上、生涯休むことなく拍動を繰り返しています。

心臓の大きさは200~300gで、内部は4つの部屋に分かれています。4つの部屋はそれぞれ、右上を右心房、右下を右心室、左上を左心房、左下を左心室と呼び、それぞれの部屋には全身または肺へと続く血管がつながっています。

また、各部屋は「弁」と呼ばれる蓋で仕切られています。右心房と右心室を仕切っているのが三尖弁、右心室と肺動脈を仕切っているのが肺動脈弁、左心房と左心室を仕切っているのが僧帽弁、左心室と大動脈を仕切っているのが大動脈弁です。これらの弁のおかげで、血液が一方向に流れています。

心臓が休むことなく拍動し続けるためには、心臓そのものにも酸素や栄養が必要です。心臓を動かしているのは「心筋」と呼ばれる心臓壁を構成する筋肉です。この心筋が拡がったり縮んだりする動きによって、心臓は拍動することができ、全身に血液を送っています。

この心筋を動かすために必要な酸素や栄養を送っているのが冠動脈です。冠動脈は大動脈の根元から左右一対に広がる血管で、心筋がスムーズに拍動するためにそれぞれ4つの部屋に沿うように分岐しています。

しかし、この冠動脈が動脈硬化などにより狭くなったり詰まったりすると、心臓の動きが悪くなり命に関わることがあります。そのような病気を狭心症や心筋梗塞と呼びます。それぞれの病気を解説しましょう。

狭心症

狭心症は、動脈硬化などの原因によって冠動脈が狭くなることで、血液の流れが悪くなり心臓の痛みや圧迫感などの発作が現れる病気です。狭心症にはその起こり方によって以下のタイプに分けられています。

  • 労作性狭心症:運動、心理的なストレスを受けたときに起こる狭心症
  • 異型狭心症(冠攣縮性狭心症):決まった時間帯、決まった行動で発作が起こる狭心症
  • 不安定狭心症:心筋梗塞の前段階。プラークが冠動脈を閉塞する危険性が高い狭心症で、発作の時間も長い傾向があります。
狭心症の症状

狭心症は、胸の痛みや胸を締め付けるような圧迫感が特徴です。心臓に負担をかけるような坂道や階段を上る、重い荷物を持つ、運動などの動作をしたときなどに起こります。また心理的なストレスや寒暖差でも同じような症状が起こることがあります。

狭心症は胸の痛みが特徴ですが、背中や上腹部、左腕の内側、のどやあごなどに痛みを感じる人もいるでしょう。

また痛み方は胸を締め付けるような痛みだけではなく、胸が重たく感じたり、圧迫されているように感じたりします。このような症状が現れると、呼吸が苦しくなったり冷や汗をかいたり、吐き気、胃の痛みを伴うこともあるでしょう。

狭心症の原因

狭心症の主な原因は動脈硬化です。動脈硬化とは、動脈の内側にコレステロールなどが溜まることで、血管が詰まったり硬くなったりしている状態です。

動脈硬化が進むと、血管が分厚くなって血管の内腔が狭くなります。また、血管内にコレステロールが溜まると、血管の内側にプラークと呼ばれるコブのような盛り上がりを作ります。このプラークが大きくなって破裂すると、血栓ができて血管を塞いでしまい心筋梗塞を発症します。

動脈硬化は、血管の老化現象のため加齢とともに誰にでも起こります。しかし、加齢以外にも高血圧や脂質異常症、糖尿病、たばこなどは動脈硬化を早める要因です。こうした要因を危険因子と呼んでいます。そのほかにも肥満やストレスなども動脈硬化を進行させる危険因子です。

心筋梗塞

心筋梗塞は、動脈硬化により、冠動脈に血栓ができて血管が詰まる病気です。冠動脈が詰まって血液が流れなくなると、心筋の細胞が壊れてしまうため突然死のリスクがあります。

狭心症は冠動脈が詰まりかかっている状態ですが、心筋梗塞は冠動脈が完全に詰まってしまう病気です。心臓の血管が一瞬で詰まると、突然死することもあるため胸に激しい痛みを感じたらすぐに救急車を呼びましょう。

心筋梗塞の症状

心筋梗塞の特徴的な症状は、胸に激痛を伴う発作が起こります。そのほかにも、呼吸困難や激しい脈の乱れ、冷や汗、顔面蒼白、吐き気などの症状が特徴です。

心筋梗塞の痛みは20分から数時間にわたります。激しい痛みは胸だけでなく、胃や腕、肩周辺に起こることもあり、これを放散痛と呼びます。激痛は胸だけでなく、胃のあたりや腕、肩などにも起こることがあり、これを放散痛と呼びます。

心筋梗塞の原因

心筋梗塞の原因は、狭心症と同じく動脈硬化です。動脈硬化のうち、大動脈などの太い動脈に粥腫(じゅくしゅ)ができるものを粥状動脈硬化(アテローム動脈硬化)と呼びます。

粥状動脈硬化は、動脈の内膜に悪玉コレステロールなどが沈着することで、プラークを作りだします。さらに、そこに血栓ができると血管が詰まるため、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすのです。

オフポンプ冠動脈バイパス手術の適応

オフポンプ冠動脈バイパス手術も、冠動脈バイパス手術(CABG)の適応基準に習い、2枝以上の病変のある狭心症や、重度の狭心症に対して行われます。特に、大動脈の動脈硬化が強い場合には、オフポンプ冠動脈バイパス手術が第一選択です。

そのほかにも、患者の病態や年齢、既往歴、ライフスタイルなどを加味してオンポンプ手術かオフポンプ手術かを選択します。現在では、冠動脈バイパス手術(CABG)の2/3がオフポンプ手術で行われており、より身近な手術となっています。

オフポンプ冠動脈バイパス手術の利点・欠点

オフポンプ冠動脈バイパス手術は冠動脈バイパス手術全体の2/3を占める術式で、安全性の高さや患者の体の負担が少ないことから、各病院で多く用いられています。

オフポンプ冠動脈バイパス手術の利点は、人工心肺装置を使わないことで、大動脈に管を挿入しないために脳梗塞のリスクが低く、全身のダメージを抑えることができます。そのため、動脈硬化が強い患者で他の臓器に血栓ができやすい人に向いています。

一方で、心臓を動かしたままバイパス血管を縫合するため、冠動脈が細いと吻合が難しくなります。オフポンプ症例では専用の器具を使いながら縫合部分を固定し、ぶれを最小限に抑えます。しかし、冠動脈はもともと細い血管であるためオンポンプ時に比べると、吻合に時間がかかってしまうでしょう。

また、手術中は拍動している心臓を持ち上げたり動かしたりしてしまうため、血圧が下がることや不整脈を起こすことがあります。また、心室細動やショックを起こすリスクもあります。そのため、経験豊富な医師の執刀が必要です。

心臓オフポンプ手術の方法

オフポンプ冠動脈バイパス手術は、全身麻酔を使用して胸を切開して行う手術です。全身麻酔で鎮静をかけたのちに、開胸するのはオンポンプ時と変わりません。

オンポンプ冠動脈バイパス手術では、心臓を一時的に止めるために人工心肺装置使い、カニューレと呼ばれる細い管を大動脈に留置しますが、オフポンプ症例では人工心肺装置を使わないためその工程は行いません。ただし、手術中に人工心肺を使用したほうが安全に手術を行えると判断した場合は、ただちに心臓を止めて人工心肺装置を使用して手術を続ける場合があります。

その代わりに、「スタビライザー」と呼ばれる吻合部位をできるだけ固定させる器具や、「ハートポジショナー」と呼ばれる心臓を持ち上げて吻合部位を見やすくする器具を使用して、心臓が動いていても、視野を確保できる器具を使用します。

オフポンプ冠動脈バイパス手術も、バイパスとして使用する血管(グラフト)は、肋骨の内側にある内胸動脈、脚の大伏在静脈、胃の胃大網動脈、前腕の橈骨動脈などです。

手術時間は移植する血管の数に応じて4~5時間程度です。通常は2枝以上の病変で行われる手術ですが、3、4枝病変ある場合では、バイパスする数が多くなるため手術時間は長くなる傾向にあります。

まとめ

狭心症や心筋梗塞の手術をするときに行われる「冠動脈バイパス手術(CABG)」は、人工心肺装置を使って一時的に心臓を停止して行うのが一般的でしたが、現在では人工心肺装置を使用せずに手術を行う「オフポンプ冠動脈バイパス手術(OPCABG)」が主流になりつつあります。

適応や手術方法は、人工心肺装置を使用しないこと以外は、オンポンプ症例と大きな違いはありません。現在では冠動脈バイパス手術の2/3がオフポンプ手術で行われており、安全性も確立されつつあります。

狭心症や心筋梗塞への理解を深めながら、手術の際にはいくつか術式があることを理解しておくと、医師との治療法決定の際に役立つかもしれません。本記事を参考にしてみてはいかがでしょうか。

当院では大動脈弁形成術のエキスパートである國原先生を始め、豊富な経験を持つ外科医を始めする心臓外科のスタッフ一同が一丸となって、患者様お一人お一人の立場に最適な治療、手術を行っていきます。

「すべては患者様のために」をスローガンに、患者様のことを第一に考え、思いやりのある温かい医療を提供してまいります。心臓疾患でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修医師

宇都宮記念病院

心臓外科國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。