どのような陰影が癌になるのか?
画像診断上、間違いなく癌と思われる陰影は突然出現することはなく、必ず最初に何らかの変化がであったと考えられます。ヘリカルCTでの検診が普及しつつある現在、どのような陰影が経過観察されるべきか、それとも積極的に検査すべきか、また放置してよいものか迷うことも多いのが現実です。
そこで小さな陰影が実際癌に変化したケースのお話をします。
癌は一度発生すると、その部位において完治したとしても、また別の部位または臓器に新たな癌が発生することがあり、これを二次(原発)癌といい、転移したものとは区別されます。肺癌においても右にできた癌が治療された後、数年経って左に別のタイプの癌が発生することがあります。簡単に言うと癌に罹りやすい体質なのかもしれませんが、恐らく癌抑制遺伝子に何らかの問題が生じている可能性が考えられます。肺癌の手術後は最低でも5年間経過観察をおこないます。その間、胸部CTを定期的に撮影しているので、二次癌が発生した場合、過去のCTから微小陰影の推移を確認することが可能です。これまで私が経験した二次肺癌発生患者の中から3人のケースをご紹介します。
CASE 1
症例は53歳女性。平成11年6月に左上葉(S4)原発の肺腺癌の診断にて、左上葉切除+肺門縦隔リンパ節郭清をおこなった患者です。病理組織において癌と同一肺葉内に、前癌病変といわれる異型腺腫様過形成が発見された症例です。術後病期は1B期で高分化型乳頭状腺癌でした。
外来フォロー中の平成13年5月頃より左残存肺の一部(S6)に、淡いスリガラス様陰影が出現、しばらく変化ありませんでしたが、平成14年1月には約1cm程度のCTではっきりと確認できる陰影に変化しました。本人も再検査には積極的でないため再び経過を追っていたところ平成14年の10月頃には、はっきりと増大傾向を示してきました。さすがに再検査を説得し、気管支鏡検査を施行したところ気管支肺胞上皮癌と判明しました(初回の癌と違うタイプ)。しかし本人はもう絶対に手術はやりたくないと言い、結局外来にて抗癌剤治療を続けましたが効果みられず、平成15年の5月にはますます増大傾向を示してきました。最終的に何とか説得し残存肺全摘出手術を了承しました。手術は獨協医大胸部外科で行いました。現在は元気に生活しています。

CASE 2
症例は65歳男性、平成14年3月に右上葉の肺腺癌の診断にて右上葉切除+肺門縦隔リンパ節郭清術を施行した患者です。胸部CT上、右上葉に約1.5×1.5cm大の腫瘍がみられました。その際、左上葉にも1cm程度の異常陰影がみられましたが、こちらは一般の検診でよく見られるいわゆる炎症性瘢痕巣と考えていました。右肺癌の手術後経過観察をおこなっていた約1年半後、明らかな腫瘍陰影に変化しました。
そこで気管支鏡検査を実施したところ、前回の腺癌とは異なる組織型の扁平上皮癌と判明しました。中等度の肺気腫も合併しており、呼吸器機能温存の点から手術は左上葉の区域切除を行いました。その後元気でいましたが最終的には1年後脳転移で亡くなりました。

CASE 3
症例は68際男性、平成11年10月に左上葉肺腺癌の診断にて左上葉切除+肺門縦隔リンパ節郭清術施行したしました。その際、右上葉にも1cm程度の異常陰影がみられましたが、これもケース2と同様に炎症性瘢痕巣と考えていました。約8ヶ月後の胸部CTではほとんど変化なく、陰影はむしろ淡くなっており特に心配はしていませんでした。その後本人も外来に来られなくなりました。約1年半後、町の検診で異常陰影を指摘され突然受診し、胸部CTを撮影したところ、以前より指摘していた陰影近傍に腫瘍が発生していました。再検査を勧めましたが、本人絶対拒否でその後来院されなくなりました。従ってこのケースの場合、最終的な確定診断には至りませんでしたが、その後どうなったか消息不明です。

今回提示したような異常陰影は、胸部単純X線写真ではある程度の大きさにならないと判別が困難です。この様な陰影は胸部CTを撮影していなければわかりません。二次癌が発生した人と、健常な人とを単純に比較することは出来ませんが、少なくともスリガラス状陰影や瘢痕巣と思われるような陰影さえ、注意深い経過観察が必要でないかと思われます。これら微小な変化は胸部CTでを撮影しなければその詳細はわかりません。実際、病気になった時に、以前の胸部CTが撮影してあればそれと比較することが出来ます。この様な意味からも健康な時に一度胸部CTを撮影しておくことをお勧めします。